課題山積の教育現場に、新しい風を吹き込む教師を養成する

課題山積の教育現場に、新しい風を吹き込む教師を養成する
教育学部長 秋山晶則教授

教育現場が変わり続けている。教師の働く環境に注目すると、不登校や保護者への対応、部活動など課外活動による労働時間の長さなどで、疲弊する教師が増えている。

子どもの指導の面では、情報化社会、グローバル化などにより変化する社会状況に呼応して、求められる教育観が変わる。答えのない世界を生きる子どもたちを育てるため、知識偏重から「主体的で対話的な深い学び」への転換など、カリキュラムや教育手法も大きく変わる。このように教育現場を取り巻く課題が山積する現状は、教員志望の受験生にとって不安材料。

そこで、現状の課題と将来の見通しについて、教員養成系学部はどのように対応していくのか、岐阜聖徳学園大学の教育学部長、秋山晶則教授に話を伺った。

変化する教員の役割と労働環境に教育学部はどう対応するか

――教えるという教育の本道以外に、不登校や保護者対応など、教育現場には多くの課題があります。そうした課題への対応力をどう育てていますか。

大学における教科や教育手法などの理論的な学びと、小中学校の教育現場との往還を、多数の大学が早い段階から行っています。実際に教師の仕事を先取り体験することにより、教育現場の課題を共有し理解することが狙いです。

本学では、こうした理論と実践の往還における学習成果を省察するため、「高い倫理観と教育への情熱」「子どもに対する深い愛情」「教科に関する専門的な知識・技能」「学級経営力」など13の視座からの振り返りを半期ごとに行い、教育効果を高めています。

――岐阜聖徳学園大学は、1年次から教育現場で様々な経験をする先駆けといえます。

小中学校の教育現場で行う「教職体験科目群」と、大学のキャンパスで子どもたちとのイベントを企画運営する「子ども理解科目群」からなる「クリスタルプラン」があり、1年次から子どもや保護者と触れ合います。教育実習も充実しており、通常の実施期間は4年次に2週間から4週間程度ですが、本学では、3年次に小学校と中学校で4週間ずつ、計8週間の教育実習を行っています。

――実習などで見つかった課題に対して、どのような対策を行っているのですか。

4年次の「教育実践演習」において、教育現場で得られた情報を事前に共有して、教師のうつや保護者対応など、様々な事例のカンファレンスを実施しています。

ただ、こうした演習をしても、実際の教育現場は大学で学んだこととのギャップがあり、予期できないことが起きます。その一つが、教育実習などでは経験できない学校の〝環境〞です。

現在の教育現場は、50歳台と20歳台の教師が多く中堅が少ないという、いびつな年齢構成になっています。成長しようという意欲がある新任の教師も、自分の力だけでは限界があり、そうした時に力になってくれる中堅の教師が少ないのは問題です。

しかし、今は中堅の教師がメンターとなり、チームで新任の教師を育てるという考え方の組織運営が進んでいます。メンター制の普及により、学級経営の課題解決や保護者対応の問題に対する解決への道筋が示されるので、教育現場環境の問題は一定度クリアできる可能性があります。

社会環境が変わっても教師の資質は“不易流行”

――社会状況が劇的に変化する中、教師像も変わるのでしょうか。

教師の資質は〝不易流行〞であり、変わるべき部分と変わってはいけない部分があります。変わってはいけないのは、〝教師の魂〞です。子どもの成長が嬉しいと喜べる、教育的愛情はどんな時代でも不変です。

学校は子どもが成長するために失敗が許される世界です。杓子定規に教育はこういうものだと決めつけず、子どもを大人に育てるということを緩やかにつかめる教師になってほしいですね。

そのためには、自身が豊かな経験をして、教師としての幅を持っていなければなりません。

――これからの時代に教師に求められる資質は。

一定水準の知識を持っていれば教師になれた時代は過ぎ去ろうとしています。第三次産業が中心の産業構造転換期に入り、世界に目を向ければ、EUの体制がゆらぎ北東アジアの緊張感が増すなど混沌としています。

こうした時代に求められるのは、「知識集約型学力観」でなく、知識を取り込んでそれをアウトプットすることに重点を置く「協働探究型学力観」です。協働探究型学力観とは、子どもの主体的な学習活動を中心に据え、必ずしも正解のない課題に向かって子ども同士で協働探究し、結果を表現し、共有できる力を育むことです。

その手法として、コンテンツとコンピテンシーを統合する「主体的で対話的な深い学び(アクティブラーニング)」があります。こうした学びを深化させるためには、知識を教える専門家であると同時に、学習のプロセスを学ぶ「学びの専門家」になる必要があります。これからの教育学部生は、こうした能力を教育現場にもって行かなければなりません。

 

教科力と指導力を兼ね備えた教師の養成が始まる

――初等・中等教育の構造が変化します。

徐々に教科担任制をとる学校が増え、小学校でも教科の専門性が求められるようになってきました。さらに、小学校と中学校が統合した義務教育学校もできています。

小中を一体にして9年間、全体を見ながら成長を見守る学校なので、小学校と中学校の免許を持っていないと対応できません。本学では当たり前のように小中の教員免許を取得していますが、これからは、他の教員養成系も、こういう形になっていくと思います。

――19年度から教職課程認定基準が変わりますが、どのように対応しますか。

これまでは、教科の専門的内容と指導法を別々に学び、学生の中で両者が有機化することを想定したカリキュラムでしたが、それでは現場で活躍できる教師が養成できないということから、19年度からは、科目を大括り化した「教科および教職に関する科目」が創設され、両者を一体的に学ぶことが可能となります。

教科と教職を融合するという考え方は、指導法や教員組織、カリキュラムデザインにも関わってきます。本学はこれまでの教育の積み重ねの上に、高い次元での実践的指導力が求められる時代に対応できる教師を養成したいと考えています。

これから教育現場や教師を取り巻く環境が大きく変わります。そうしたことも念頭におきながら、しっかりと育ててくれる大学を選ぶ必要があります。

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